創刊に当たって



 「ふぉとん」とは、量子論世界での、光の称び名である。量子世界で観測される光は、粒子であると同時に波であり、波であると同時に粒子である。かつまたそれは質量というものをまったく持っていない。……この一見して不可解極まる「光」の姿は、しかし実はわれわれのこの「生」とそっくり、否「生」そのものではないだろうか。
 われわれの生の、この表現は、即ちわれわれの生の叫び聲は、それが高ければ高いほど、鋭ければ鋭いほど一層、瞬間に移動する粒子となって聴き手の身体を撃ち、波動となって聴く耳に木霊を響かせるだろう。
 そしてわれわれの叫び聲は、この世の重力から解き放たれ、真偽、善悪、美醜等々、それらの質量を喪失すればするほど一層、無限の深い自由を以って、時空を瞬時に往還するだろう。
 量子が質量世界に於ける自身の喪失として顕現されるように、われわれの表現営為は,表現の喪失としてこそ、最も遠く、最も深いエコーを持つであろう。
 われわれの雑誌が「ふぉとん」と称ばれるべき所以である。